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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)120号 判決

上告人

菱田静こと

菱田志津

右訴訟代理人

高井吉兵衛

被上告人

名古屋鉄道株式会社

右代表者代表取締役

土川元夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人および上告代理人高井吉兵衛の上告理由について。

原判決は、従来被上告会社(被控訴会社)において退職した役員に対し慰労金を与へるには、その都度株主総会の議に付し、株主総会はその金額、時期、方法を取締役会に一任し、取締役会は自由な判断によることなく、会社の業績はもちろん、退職役員の勤続年数、担当業務、功績の軽重等から割り出した一定の基準により慰労金を決定し、右決定方法は慣例となつているのであるが、辞任した常任監査役高木吾平に対する退職慰労金に関する本件決議に当つては、右慣例によつてこれを定むべきことを黙示して右決議をなしたというのであり、右事実認定は、挙示の証拠により肯認できる。株式会社の役員に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法二八〇条、同二六九条にいう報酬に含まれるものと解すべく、これにつき定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもつてこれを定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されないこと所論のとおりであるが、被上告会社の前記退職慰労金支給決議は、その金額、支給期日、支給方法を無条件に取締役会の決定に一任した趣旨でなく、前記の如き一定の基準に従うべき趣旨であること前示のとおりである以上、株主総会において金額等に関する一定の枠が決定されたものというべきであるから、これをもつて同条の趣旨に反し無効の決議であるということはできない。

原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告人の上告理由<省略>

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